これはとんでもない本に出会ってしまった。デジタルデトックスについて調べている最中に、リラクゼーション効果について調べようと購入した一冊だったのですが、樹木や森というエコシステムの神秘性や一方で植物の非常に合理的な生存行動を教えてくれた一冊でした。
ドイツで100万部以上販売されたベストセラーということなのですが、植物の生体という領域でそこまで本が売れることって日本だと中々ないですよね。
- 樹木は根っこで他の樹木から栄養を分けてもらっていることがある
- 貯水エリアで育った樹木は、水がある前提で成長し、そうでない同種の樹木よりも乾燥した天気への対応力がない
- 葉っぱは光合成のために必須だが、太陽光の強さと葉の成長レベルによっては焦げてしまう
などなど、森の中のエコシステムと植物の種類毎の特徴について読者を興奮させてくれる一冊でした。
なぜ親木は子どもの木に光を与えないのか?
まず驚いたのは何百年も先行して大きくなっている親木が足元で成長している成木の子ども達に十分な光を提供していない、という点です。親木は広く横に枝を広げてその葉で太陽からの光の97%を吸収し、子どもの成木は残りの3%光で光合成を行い生き抜かなければならない環境におかされます。これでは上に伸びていくだけのエネルギーを生成することができず、天然の樹木では100年経っても鉛筆程の幹の細さにしかならないそうです。
しかしコレは子供の長期的な成長を考えた上で親がコントロールした教育だといいます。ゆっくり育つ過程で、細胞は細かく詰まった状態になり、空気が殆ど入らないことで柔軟性の高いしっかりした木の土台が作られます。また必要に応じて親木は根っこで子供の成木に栄養を与えており決して見放したわけではないのです。
その期間に枝葉を横に伸ばすことで精一杯落ち込んできた光を吸収するよう努力し、準備が整ったらまっすぐ上に伸びるタイミングで成長の方向が上方向に切り替わるのだそうです。
また、早く光合成を行うデメリットとして、光合成を行い糖分を多く含んだ芽をつけると動物たちのターゲットにされやすいという特徴もあり、十分に基礎ができてから縦に成長させる、という教育方針なのですね。
季節の変わり目ー春夏秋冬と光の戦い
季節の変わり目を樹木はどのように感じているのでしょうか?これは種類によっても異なりますが気温によって葉を伸ばす時期を検知しているそうです。
興味深いのが、標高が上がるごとに温度が下がるように、身長の高い親木の周りは子供の木々よりも温度が低くなります。そのため春になった時に子供の成木の方が早く春を検知し、2週間ほど早く葉がなるため、今まで親木に邪魔されていた太陽の光を独占できる絶好の期間になるそうです。春は光を求めた決戦の時期なのですね。
なぜ落葉樹は冬に葉が落ちるのか?
なぜ落葉広葉樹は冬に葉を落とすのでしょうか?曇りの日が増えて弱くなった所に冬場の強風が当たり散ってしまう外部の要因かと考えていましたが、これはどうやら樹木の意図的な行動であるらしいのです。
- 光合成効率が落ちる
- 気候変化に対する防御手段
- 不要物の排泄
◎光合成効率が落ちる
重要なポイントとしては冬場の光合成効率が悪いことで、葉を落とした方が合理的であることがあげられています。葉を維持するためのエネルギーの方が葉が生成できるエネルギーが少ない場合合理的に落とすことを選択するようです。この光合成効率は樹木単体の生体以外に、周囲の環境・天候の要素が大きく関係しているので一概にどの場所でもこういった理由とは言えないそうです。
◎不要物の排泄
葉を落とす行為には栄養素の循環・不要物の排泄の意味もあります。葉緑素を翌年の春に新しい葉に送り込むために、葉緑素を細かい成分に分解して保管する準備をしつつ、不要な物質を葉に送り込みんだ後に樹木は葉と枝のつなぎ目に分離槽を作ります。こうした普段排泄できないものを冬のこの時期に吐き出すのですね。
◎気候変化に対する防御手段
樹木は冬場にかけて体内を循環する水の量を徐々に減らしていきます。これは樹木が液体の水のみを受付けており、冬場に体内の水の通り道で凝固して破裂してしまう可能性があるからです。
また、天候という点では防風・雪に対する対策でもあります。冬場にかけて強風が吹き荒れたり、雪が振り木々に重みがのしかかることで根本から倒されたり、幹が折れてしまう可能性が高まるのです。こうした危険に対して、葉っぱを落とすことで体積を小さくしてそうした外部の脅威から木全体を守る意味あるそうです。
針葉樹はこうした問題に対して、不凍液のような物質を葉の中に含めることで対応していたり、ワックスのような水の揮発を防ぐコーティングを葉につけることで対応しており、葉を落とすだけが樹木が生き残る唯一の対処法というわけでもないのも興味深いですよね。
謎多き樹木達の暮らし
普段全く意識せずに眺めている町中の木々ともまた違う、樹木が一体となって作り上げる森という場所が非常に神秘的なものにおもえてきますね。「どうやって樹木の中で水を供給しているのか」という一見初歩的に思える構造も、科学的には未だに結論が出ていない、といった発見もありこの世界に眠る不思議が一層広がる一冊でした。