「都会の喧騒から離れ森林の中で時間を過ごすとリフレッシュできる」
「リラックスする時はいつも近所の自然の多い公園に出かける」
こうした気持ちになったことはないでしょうか?実際に、樹木に囲まれて過ごす時間の中で私達の頭の中で何が起きているのでしょうか?今回まとめた本「NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる」はジャーナリストであり、自然愛好家であるフローレンス・ウィリアムズさんの書かれた一冊になります。
研究の参照だけでなく、実際に世界中の専門家と直接会い、時には森林の中でともに時間を過ごして得られた知見が多くに詰まっており非常にいい読み応えのある本でした。若者の森林に対する認識や国ごとの取組みの違い、都市開発における自然の重要性などについてもこちらで簡単にまとめて見たいと思います。
森林浴の効能とは?脳が働くようになる?
さて、デジタルデトックスの方法として森林浴が注目される昨今ですが、研究面から見た森林浴の効果はどういったものなのでしょうか?
千葉大学の宮崎教授、イ・ジュヨンさんのビジネスパーソンを対象んおこなった研究では・数時間森の中をゆっくりと散策してもらうと都会を歩いているときと比べて、ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾール値、血圧・交感神経の活動、心拍数が下がることが確認されました。
また、わざわざ森に足を運ばずともヒノキから抽出したオイルを加湿器にセットし焚くだけでも、ナチュラルキラー細胞が3日後に20%増大していました。こうした効用の1要因として、樹木の持つフィトンチッドという化学物質があげられます。
フィトンチッドについては別でまとめましたので詳細は別のページにもまとめて見ましたので、是非こちらも見てみてください!
脳の働きが変わる?
本書で興味深かった点として、樹木の放出する化学物質の効果ではなく、森林という場所がどう脳に影響するのか、ということは実はまだ解明されていないことが多いということです。
本書で1仮設として記載されているのは「デフォルトネットワーク」と呼ばれる脳内のネットワークが活発化することがあげられていました。人間の脳には、実行ネットワークと呼ばれる集中や知的な活動をする際に活動するネットワークと、まさにその機能が活動しない時に逆に活動を始めるデフォルトネットワークが存在しており(空想に浸ったり、ぼんやりしている際に活動していると言われます)、刺激の多い都市部や、常にデジタル機器に注意を奪われる都市での生活から離れ、刺激が減り選択肢が減ることで最高の力を発揮できるように脳を回復させているのではないかと考えられています。
また興味深いのが注意力の緩みは自然の中に滞在した時間にも関係しているのではないかとの仮設も持たれています。これは「新奇性効果の影響」といって森林に入っても、バックパックを背負ったり、ハイキング用の装備をしたりと、非日常的な経験が続くため、本当に新奇なものに注意を向けないようになるのは、4日後位なのでは、といったことも考えられているようです。
世代と共に変わる、自然への憧れや関係性
若者は自然への憧れを持っていない
韓国の森林セラピストの印象深かい一言でした。彼は「大地へ帰ろう」といった流れに、いまの韓国人はあまり憧れをもっておらず、「自然のなかにいると気持ちが落ち着く」という感覚を、早いうちに子どもに植えつけることが肝要だと話していました。自然に対してのジェネレーションデバイドが発生しているのは驚きつつも、納得できる部分がありました。
森林キャンペーンを手遅れにならないうちに展開しなければなりません。・・現代の子どもたちや若者には、真の意味で自然のなかですごした経験がありません。・・ですから森は汚くて怖いところだと考えている人が大勢いる。その思い込みをいますぐに変えないことには、もう二度とチャンスはないでしょう
本書より
確かにインターネットで過ごす時間が増えれば増えるほど子どもにとって自然との距離ができてしまい、それによって自然と生活の接点が全くない子どもたちが出てきているのです。
自然はゲームより魅力的なのか?
またゲーム依存症が大きな社会問題となっている韓国ではデジタル・デトックスのプログラムも進んでいます。本書は全体を通してゲームよりも自然の方が魅力的である、という点に主眼が置かれていますが、韓国の林野庁の責任者は子どもにとっての魅力はゲームの方が強いのは受け入れた上で自然にふれる機会を増やして行くことの重要性を説いています。
森ですごすのは、ゲームをしてすごすよりおもしろいわけではない。果物がジャンクフードより美味しいというわけではないのと同じです。子どもたちに無理矢理、ゲームで遊ぶのをやめさせることはできません。しかし年齢を重ねるにつれ、ある日臨界点に達し、もうジャンクフードより果物を食べなくちゃという気になる。森ですごしているあいだはゲームでは遊べません。森で遊ぶこと自体も楽しい行為ですから、臨界点に達する時期を早められるのです。
本書
地域によって変わる森林の役割
緑の福祉として注目される韓国
韓国では「緑の福祉」というスローガンの元、国家主導で森林に足を運んでもらうキャンペーンを進めています。背景には若者達の間で広がるストレスです。韓国では高校生のストレス率が世界1位となっており、日本と同様に深刻なストレス社会になってきています。こうした背景を受けて、山林庁では森での胎教レッスンから森の幼稚園、いじめっこを2日間森の中で過ごしてもらい、少しは気持ちをあらためさせようというプログラムを数多く実施しており、 国有林を訪れる人の数は2010年の940万人から2013年には1270万人に増えじつに国民の6人1人が森を訪れるようになったそうです。
500M以内に緑を。スコットランドの政策
スコットランド政府は「(愛しき緑の地〉とさらにその先へ」という指針を打ちだしました。これは国民の誰もが自宅から500メートル以内の安全な森に行けるようにするよう政策を進めているようです。韓国や日本では、どのように森に足を運んでもらうのか、といった所が鍵でしたが、スコットランドは国土の森林面積の割合を現在の17%から25%に増やすべく、植樹と森の美化活動に力を入れています。国家レベルの健康指標として、自然との距離感を入れ込んでているのは非常に興味深いですね。
オススメの自然との関わり方
世界中で検証されている実験からオススメの付き合い方を「ネイチャーピラミッド」として紹介してくれています。
近くの自然にごく短時間触れることから、雄大な自然のなかで長期間すごすことまで、オススメの頻度を紹介してくれています。一番下の段は日常的に観葉植物を育てたり、外に出て街道の樹木を眺めるなど簡単なことでストレスが軽減され、集中力が高まり、疲れた心と頭が癒やされることを触れています。そこから二段目に上がると、週に一度は行くべき場所として、公園や川を、さらにピラミッドを一段上がると、それなりの努力をしないとたどりつけない森林浴に出かけたりすることをオススメしています。
今後も目がはなせない研究領域
森林浴の研究において、圧倒的にデータが足りない現状がありそうでした。もちろん研究者の数や予算などの課題はありますが、ラボで脳波を調査できる実験とは異なり、森の中で行うことが多い際に手間もコストも多くかかることや、どういった脳波を調べるべきなのか、といった研究方法・焦点がバラバラで本当にこれからの分野なのかな、といった印象を受けました。
また本書では科学的に森林と人間に関する研究に多く焦点を当てていますが、ストレスフルな都市化された社会から、いかに森に一歩踏み出してもらうのか、どう魅力的な場所に見せていくのか、という点が今後の活用におけるハードルだろうと感じる部分がありました。各国で実施されている森林プログラムについても触れられていましたが、森林は踏み入れて改めて感じられる良さがあると思うので、森に興味がある人だけでなく、ない人にどう最初の興味の種を持ってもらえるのかに注目ですね。
個人的にはアニメ「ゆるきゃん△」を見てからキャンプ欲が強まった所があるので、こうしたアニメとのコラボとかは日本的なアプローチでぜひとも見てみたい所です。