デジタルミニマリストーデジタルデトックスの先へ

「 そもそもなぜそんなにたくさんのアプリを使っているのか。彼に必要なのは、そして似たような問題に悩む私たちすべてに必要なのはテクノロジー利用の哲学だ。どのデジタルツールを、どのような理由から、どのような制約のもとに受け入れるかをゼロから選び直す基準となるような。こういった内省を経なければ、依存性が高くて見かけばかり美しいサイバー世界の小間物のつむじ風に巻かれて苦しみながら、その場しのぎのライフハック の正しい組み合わせがやってきてそこから救い出してくれるのをむなしく待つことになる」

本書;デジタル・ミニマリスト

本書のイントロで記述されている一文がこの本の革新をついていると感じました。

本書は、インターネット依存症からのいかに自分の時間を取り戻すのか、といういわゆるデジタルデトックス系のジャンルではありますが、人生における充実度を高めるには何が大切なのか?本当にSNSやインターネットサービスが最適な方法なのか?といった問いからテクノロジーとの関係性について考え直すという、ハックよりもう一段も二段も深く掘り下げている点が特徴的です。

主軸が「オフライン回帰」ではなく「人生の充実」というより大きな所に置かれている魅力的な一冊で、デジタルデトックスを考え始めた人にはぜひとも一度読んでみてほしい一冊です。

増えるインターネット依存症、そして克服のための「ハック」

インターネット依存症・ゲーム障害といったテクノロジーの発展に伴う社会問題に対する対処方法として、2016年ニューヨーク・ポストに「私がスマートフォン依存をたてたわけ」というタイトルで一つの記事が寄稿された。iPhoneで使っている112個のアプリ通知を切ることで依存症は簡単に治るのよ、と楽観的なテンポで書かれたこの記事に対して、著者は「新しいテクノロジーをめぐる大きな問題は小さな変化では解決できない」と反論している。

デジタルジャーナリスト達の表面的な「ハック」では十分ではなく、「そもそもなぜそんなにたくさんのアプリを使っているのか?」といった根本的な疑問を自分に向ける必要があり、もっと哲学的な部分でテクノロジーとの付き合い方を見直す必要性を説いています。

「デジタルミニマリスト」という哲学

本書ではデジタルミニマリズムについて下記のように定義しています。

「自分が重きをおいている事柄にプラスになるか否かを基準に厳選した一握りのツールの最適化を図り、オンラインで費やす時間をそれだけに集中して、他のものは惜しまず手放すようなテクノロジー利用の哲学」

そしてその哲学に沿って生きる人をデジタルミニマリストと呼んでいます。ネットの発展によって10分ごとに通知が来たり、SNSで友人の投稿を追っていくのに集中する時間も取れない日々、一方で会社員として同僚のメールに返信しなければいけなかったり、友達と話したいアニメやドラマがあるというのが本音ですよね。

著者は一貫してテクノロジーを批判しておらず、テクノロジーによって「自分の人生のコントロールを失うような感覚」にならないよう警告しています。「有益かどうかは問題ではない。主体性が失われていることが問題なのだ」という彼の主張は感情論や一方的なデジタルデバイス利用に反対する議論において非常に重要なポイントだと感じました。

1600人の協力者から学んだデジタルミニマリストの魅力と課題

著者は自らのメーリングリスト登録者1600人を対象にデジタルミニマリストになるための3ステップを実施してもらう30日間の集団実験を行いました。本書の面白さはそうした実際に参加した人の生活変化や逆に離脱の理由を明確にして気をつける点を明確化している点にあります。

 デジタル片付けのプロセスは3つのステップに分かれています。

  1. 30日のリセット期間を定め、かならずしも必要ではないテクノロジー利用を休止する
  2. この30日間に楽しくてやりがいのある活動や行動を新しく探したり再発見したりする
  3. 休止期間が終わったら、まっさらな状態の生活に、休止していたテクノロジーを再導入する

まず、現在使っているテクノロジーの中で必ず必要なもの(メール、Slack等)以外のアプリは30日間すべて排除し、この期間は、取り戻した時間をいかに充実させるのか?ということに注意を傾けることに使います。30日たった際に、改めて我慢していた1つ1つについて、自分の生活にどのようなメリットがあるか、そのメリットを最大化するにはどのように利用すべきかを検討するというアプローチをとっています。

始める前に注意したい3つのポイント

ルールが漠然としている

まず気をつけるべきポイントとしては、ルールの明確化です。著者は「標準運用規定を守ることで企業の戦略と戦う」と述べており、そもそも戦略的に私達の時間をネットまみれにしようとして来ている勢力に対して、我々も明確なルールを持って立ち向かわないとすぐに企業戦略に破れてしまうのです。

例えば、「友人との距離が縮まるからフェイスブックを使う」といった粒度ではなく「親友や家族の様子を知るために、毎週土曜日。パソコンを使ってフェイスブックにアクセスする。携帯電話にはフェイスブックアプリを入れない。友達リクエストは意義のある関係を気づいている人だけを残した」といった厳格なルール作りが必要になってきます。

取り戻した時間をどう使うのか

実際にデジタルの時間を最小にしようと考えた際に、その時間をいかにワクワクの再発見につなげられるのか、がキーになってきます。私達が携帯電話のスクリーンにかじりついているのは、余暇が充実していないせいで生まれた余白を埋めるためであることが多く、その余白を埋めるプランを作ることで、余白を避けることに注意をそらす必要はなくなるのではないか、と説いています。

このポイントは非常に納得行く部分があり、思考についても同様で「OOについて考えないでください」と言われたグループの学生が「OOのことを考えないということを考える」状態になり、結局考えてしまうという文章を読んだことがあります。本書では実際に余暇を充実させることの重要性、協力者たちがどういった余暇の使い方をしているのか丸々1章を使って書かれており、どう趣味を見つけ、戻ってきた時間を有効活用するのかを考えてみてもいいのかもしれません。

デトックスをゴールにしない

実際にこの集団実験は途中での離脱者や30日間の体験が終わった後に継続できない人が少なくない数いました。30日間も暇な時間に使っていたスマホを手放すので、当然生半可な気持ちでは続かないですよね。著者は、デジタルデトックスとして一時的な改善を期待した人は長期的な関係の見直しには繋がりづらかったと結論づけており、この30日のリハビリを始める段階でなぜデジタル機器との関係性を見直したいのか、どういった生活を作っていきたいのかを考えられるのか、が大きな分かれ目になるかもしれません。

どんなアクションを取るのか

本を読み終えてまずiPhone内のアプリの整理に取り組みました。笑

自分の場合直近のめり込んでいる将棋ゲームに大半のスクリーンタイムが使われていたので、何時間も使えてしまう無制限に対戦できる有料プランから、一日の対局数を制限した無料プランに切り替え、我慢する気持ちもありますが総じて時間が増えた気持ちです。

こうしたテクノロジーとの付き合い方に関しては、ネット記事で読んでいたら、読了後に簡単にTwitterやInstagramを開き生まれた興味が一瞬で相殺されてしまう可能性が高いので、ぜひ数時間の読書時間をとってでも考え直す時間としてみていただければと思います!

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